都会 ― そびえ立つコンクリートの群れ。
熱を帯びたアスファルト。
無表情に流れてゆく雑踏。
無機質で膨大な顔をもつ空間。
しかし、そんな都会の一角にも、
ひとりの人間と、ひとりの人間との、
小さな小さな世界が無数に散らばっている。
父親は夢に追われた少年 ― 母親は女 ―。
彼らもかつてここで出逢い、愛し、
一つの生命を宿した。
が、二人の心が別々に歩き出したとき、
引き裂かれた幼い魂は、
どこを彷徨うのか・・・・・・
窓ガラスに仕切られた、
無音の世界に孤立する少女・・・かがり ―
その瞳の奥に覗かれる心の扉は、
固く閉ざされていた。
弧空に漂う〈ゴンドラ〉に乗り、
内側から冷たく遮られた硬質な窓ガラスを、
黙々と磨く青年。
ノイズィな都会の空間に彼も孤立している。
遙か上空から見下ろす都会の風景の上に、
青年は静かに幻の海を見た。
かがりと青年 ― 窓越しの出逢い。
「死んじゃうと、生きてたことってどこ行っちゃうのかな」
二人を引き逢わせた小鳥の死は、
言葉を閉ざしたかがりにもう一度、
信じようとする力を与えた。
青年には〈故郷〉があった。
北の村 ― 天空に向かってそそり立つ岩礁の群れ。
魚の捕れなくなった海。
漁師達ちは陸にあがり、残されたものは朽ちた小舟。
全てのものを包み込む紺碧の海を愛し続け、
年老いた青年の両親は、
今も寄り添って静かに暮らす。
少女の描いた一枚の絵 ・・・・・・
もう街の上に海は見えない
生命の原風景に導かれ、二人は旅へ ・・・
今、方角は〈あたたかい北〉
失われた旋律を索めて ・・・・・・・・・